別冊キラン|千の物語を紡ぐ 田島伸二












千の物語を紡ぐ

「雲の夢想録」は1976年から書き始めた夢想の物語だ。

いまのところ1年に1篇という遅筆であるが、最終目標としては1000篇の物語の執筆を目指している。(笑)

日本語版ではすでに8篇の物語が出版されており、英語版では12篇がオックスフォード大学出版局(Oxford University Press)から出版されている。また韓国とビルマでは26篇が翻訳出版され、物語としては現在まで31篇が完成済みである。

この夢想録は大空を漂う雲が、自分で見たり考えたりしたという設定で、私の体験したこと、想像したことなど人生上のさまざまな風景を自由自在に綴っているものだが、創作の物語の現場に立ち会っている。

しかし30年過ぎて30篇とは・・・・・。
この調子だと1000年もかかるかも知れない。(笑)


雲の夢想録の始まり―みなさん、雲の語った物語に耳を傾けてごらんなさい。

大空を流れる雲は、まぶしい光とさわやかな風を友としながら、人間たちをいつもはるかに見下ろしています。雲はなんでも見ています。そしてなんでも知っています。

あるときは、人間のまだ行ったことのないはるか宇宙のかなたアンドロメダ星雲のなかにポッカリとのどかに浮かんでいるかと思えば、またあるときは、わたしたちの悩み苦しむ心の中に浮雲のように漂っていることもあります。

雲には時間も国境もありません。ただ大空をどこゆくともなく流れ流れて、あるときはインドのガンジス川の菩提樹の岸辺に浮かび、またあるときは中国の万里の長城の空の上を秋風に吹かれて遊んでいます。

地中海の孤島セント・ヘレナに流されたフランスのナポレオンが、彼の人生を考えながら雲を見上げたこともあれば、八方塞の小さな暗い牢獄の中で、「ああ」と、一人のギリシャの哲学者がため息をもらし、雲の流れに彼の人生を託したこともあります。

ヒマラヤの山麓にすんでいる少女が、家の貧しさを悩みながらも夕焼け空が美しく変幻するのをいつまでも見つめていたこともあります。

雲はいつも私たちの心の中に浮かんでいるのです。

ある晩、私は晴れ上がった星空を振り仰いでいました。すると西の空でひときわ大きく輝いていた星が、目のさめるような輝きを私に送って言いました。

「自然の意志に耳を傾けなさい。自然がすべてです。あなたたちは、この世では人間がすべてだと思っておいででしょうが、宇宙では人間はとても小さな存在です。例えば、大空に浮かんでいる雲が語る物語に耳を傾けてごらんなさい。雲は人間のすることをいつもじっと見つめていますからね」

それ以来、私は大空に浮かぶ雲に尋ねて、毎日毎日たくさんの喜怒哀楽の物語を聞きました。

それは人間の遠い過去や遠い未来、広大な宇宙や限りなく変化する人生や世界―でもそれは雲が語ったうちのほんの断片にしかすぎません。

なぜって雲の語りは、余りにもゆっくりとしており、あるときは流れ、あるときは途切れ、絶え間なく永遠に向って流れている時間の大河のようでしたから・・・・。